民話 11〜15
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11

うそつきうそ助

12

梶屋ケ谷(かじえがだに)の狐

13

うめき木

14

馬の尻のぞき

15

坊さんと狐

 

11      うそつきうそ助

むかし、阿蘇山のふもとのある大地主の家に、うそ助という下男がいました。

うそ助は名前のとおり平気でうそをついていました。

ある日、うそ助は主人の命令で山に草とりにいきました。一日中、山で木の実をとったりして遊んでいたので、何も持って帰りませんでした。うそ助は、「山でわしの巣をさがしていたから薪はとれませんでした。その代り大きなわしの巣をみつけました。」といいわけをしました。主人はわしの巣がほしかったので、ほんとうと思い、翌日、うそ助を連れてわしの巣とりに山にいきました。

主人は昨日みつけたという松の大木にうそ助を登らせましたが、もともとうそだからあるはずがありません。

うそ助は木の頂上に登って因ってしまいました。とっさに、またうそをいい「やあ、ここからよく村がみえます。おや、大変だ。大変だ。うちが火事です。」

二人は山から走って帰りました。しかし、村も主人の家も何ごとも起ってはいませんでした。

かんかんに怒った主人は、ほかの下男たちにいいつけて、うそ助を空俵(あきだわら)に入

れて川に流しにやりました。町をとおりかかった時、うそ助がいいました。

「私はもうすぐ川に流されて死にます。死んだらお金(かね)はいりません。ここに金

がありますから、お酒でも飲んでつかって下さい。」

下男たちは喜んで道ばたに俵をおいて酒屋に入っていきました。

ちょうどその時、めくらが通りかかって杖で俵にさわりました。うそ助は、「今、私はこの俵の中で目の治療中ですが、もうすっかりよくなりました。この俵はふしぎなカがあって、どんなめくらもみえるようになるのです。」

目がみえるようになりたい一心で、何も知らないめくらはうそ助と代って俵の中に入りました。うそ助は俵を結ぶと、さっさとどこかへ行ってしまいました。

酒によっていい気持ちになった下男たちは、鼻歌まじりで大川の方へその俵をかついでいきました。おどろいためくらがどんなに叫んでも、下男たちは、うそ助が助けを求めてもがいているものと思いこんできいてくれません。そして、大川にその俵を投げこんでしまいました。

それから二、三日たった時、うそ助はさかなやお酒やごちそうをたくさん持って主人の所へもどってきていいました。

「私は、あの俵にのって竜宮というところにいってきました。竜宮はきいたくらいではわかりません。行ってみると、もっともっとたのしい所です。これは乙姫さまからのお土産です。」

「そんなにたのしい所なら、私もぜひ一度行ってみよう。」と主人はいいました。

翌朝、うそ助ともう一人の下男は、主人の入っている俵を川に運んで流しました。

その後、うそ助はその地主の家の主人になって幸せにくらしました。

12     梶屋ケ谷(かじえがだに)の狐

 

阿蘇山の麓に梶屋ケ谷という薮(やぶ)がありました。そこは各でも淋しい場所で、人をだます狐が住んでいるというので、人々はめったに近づきませんでした。

あるとき、一人の男が、この狐をこらしめようと決心して、その谷に出かけていきました。

なるほど淋しい所で、人ひとりみかけません。ふとみると、すぐむこうの薮(やぶ)で古狐がくずの葉をつんで食べていました。

「狐はくずの葉を食べて化けるときいていたが、今に化けてくるだろうと心の中でつぶやいてじっと待っていました。

すると、一人の琵琶(びわ)ひきが現れました。むかしは、琵琶をひきながら歌や物語を演ずる旅芸人がどんな田舎でも回ってきていました。でも、男は狐が化けた琵琶ひきだと見破っていたので、追っかけて捕えようとしました。

ところが、すたすたと足ぼやにいくので追いつきません。男が走れば、もっと速く、ゆっくり行けば、それより少し速くというように、いつも見えかくれに前をすすむのです。

しばらく行くと、道ばたの百姓家に入って琵琶をひいてうたい始めました。

男が後を追いついて家に入ろうとすると、戸が締りました。

その男は、その家をぐるぐるめぐって入口をさがしました。すると、障子があって中から一層はっきり琵琶の音がきこえてくるのです。

指で障子に穴をあけようとした時、男は白馬にいやというほどけられました。その男は、いつのまにか狐にだまされていて、百姓家のうまやの中につれこまれ、白馬の尾の穴を障子と間道ってそこを指でつついていたのでした。

 

13うめき木

 

むかし、阿蘇神社の楼門(ろうもん)を建てかえることになって、通当な大木をさがしていました。

ちょうどその時、乙姫の下谷鏡山に一本の大木がそびえていたので、みんなの意見がまとまり、それを楼門の柱用に切り出すことになりました。

さっそく、こびきが大鋸(のこぎり)で切り始めました。あまり大きいので一日では切れません。途中でやめて翌朝行ってみると、切口がつながっていて、また始めから切らねばならないのです。

人々は話し合って、昼夜をとおして切ることにしました。夜はたき火、たい明をたいて、ようやく二日掛りで切り倒しました。そして、枝を落し、長さを合せて切り、道に出して、馬にひかせるばかりにして帰りました。

翌朝、馬を何頭かひいて行ってみると、その木がありません。よく耳をすますと、深い谷底からうめき声がきこえるのです。

みんなはびっくりして谷底へ行ってみると、道にあった木が谷にころがり落ちて「うーん、うーん」とうめいているのです。どうにかしてその木を谷から上げようとして、おおぜいの人がカを合わせますが、決して動きません。

人々は、とうとうその木を楼門の柱にすることをあきらめました。その大木は、その後も長く谷の川底に沈んだまゝ 「う−ん、うーん」とうめいていたので、人々はそれをうめき木とよびました。そして、うめき木は今もなお、その谷底に横たわっているといわれています。

 

14  馬の尻のぞき

一の宮町宮地 岩永 寿

( 出典:関西外国語大学 三原研究室 阿蘇山麓の口承説話より)

 

ある村に何さんちゆうたかな、ちょっと名前は忘れたが、ちいっと人間の足らん、馬鹿に近いような、その馬鹿もんがおって、そして 「あんた、うちにゴロゴロしとらんな、今日どま、焚きもんどまあ取りに行って来なはり」ち、親から言われた。

「んなら、焚きもん取りに行こう」ち、一人でどんどんこう山を登って行って、ある程度高い山からふっと谷間を見たところが、一匹の大きな狐が何かこう蕗の葉ぱ取って、体にべターンベターンとこう付けとる。

「なあにしよるじやろうか」と見ると、見とる間に次第次第にその狐がきれえなお嬢さんの着物にそれが変ってしもうて、川ん水で顔をこうすると、真っ白な年頃の娘ん姿に、草ば頭にすると黒い髪になって、立派な、見とる間に綺麗なお嬢さんになった。そこでそん若者な、 「ははあ、狐奴があやって騙すぱいな。よっし見とれよ。俺が後で付いて行って、丁度騙しとる時い、いっちょとっちめてやろう。」で、山からこそこそこそこそ降りて、その狐ん後ぽこう降りて、狐はこう蕗の葉ば取ると、これがきれえな傘になるで、傘さしてシャナリシヤナリ、シヤナリシャナリ歩いてその谷間を降りて、村んはずれにこう来て、そしてある一軒の家に、

「ごめん下さい。」中に入って、

「ははあ、ここに行って化かすばいな。」 で、そん若もんな、「ようし、見てやれ」 と思ちから、どうどこぞ見たっちや暗うして見えん。中が分らん。そこで唾付けちからこう障子にこうやって穴開けち、こう見たちや中あ暗うして分らん。ええ、もうさいさい唾あ付けてこうこう動かして、ところがヒヒーンと鳴いた。ひょつと気付いた時にや、馬ん尻の穴ぼこうゴクゴクやりおったちゆう話だ。

15 坊さんと狐  一の宮町宮地 岩永 寿

( 出典:関西外国語大学 三原研究室 阿蘇山麓の口承説話より)

 

万願寺の坊さんは、みやのはるに行く時は近道を通るために山の高いところの尾根ちいますが、高い所ぱずうつとこう行きよったところが、いっかけその狐がこう丁度行きよったとこが、雨がちいっと降り始めたんで傘ばポッとこうさしたちゆう。その傘さしたのに狐が昼寝しとって、良か気分で寝とつたのに傘をパァッとさしたもんだけ、狐の奴がたまんがって、コンコンちゆうて逃げちた。それからこんだあ、帰りがけに晩方に、ちいっと遅うなって遅うなったちや、やっぱ近道の山の方が良かろうちゆうとこで、坊さんが帰りよつたちゆう。ところがお寺のいつも雇うとる下男が馬ば引つ張って来て、 「迎えに来ました」ちゆうて。それから、 「ああ、そら、わざわざ迎えに来て有難う」 ちゆうちから、その馬に乗っとったところが、行けども行けどもこう一晩中、こうこう、こうこう揺られちから行けども行けども帰りつかん。ふっと東の空がああこうなって気付いた時にや石の上に一晩中乗って、こうこう、こうこうしとったちゆう。そがいな話は子供の時、聞いたことあるんですが。


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