民話 31〜35
ホーム • 上へ 

 


 

31

八大竜王様

32

猿の婿入り

33

たぜんさん話(その一)

34

たぜんさん話(その二)

35

湯女の話

 

31 八大竜王様 

話者 渡辺 あい子 平成8年3月8日 

採話 岩下 久美子氏   駿河 郁代氏

八大竜王様(一の宮町中通下原)にある。

 

八大竜王様の藤ですな、あすこにあるところの神社ですたい。それが昔からの人の話にめっちゅんばばさんちゅう人がおんなはった。私が考えたのにメッチエンというのは女ですな、オッチエンちゅが男らしいですな。

メッチエンばあさんちゅうは女のばあさんちゅうことですな。

その人が機織りよったら雷さんがおてかかりなはったそうですたい。 でも、いさざ気の激しいばあさんじゃったき、側におりてから薙刀を引き抜いてですね、雷さんに切りつけたてですたい。そしたら雷さんが眉間

を割られて怒って「七・八代崇る」ちゅうて天に昇っていったそうです。

 それからその人は機を織りよったけどですな、そこはそこまでだけど私が城山ドライブインにいきよった時、夜ですな荻の草の人がきよんなはった。その荻の草ん人ちゅうが昔は日野峠に住んどってですね、あるとき草を刈りよったら昔の事だったから     火をつけよったらですな大蛇がおって、竜ですたいな、まあ三日待ってくれ、お産をしよるからというので、三日待って火をつけたそうです。そしたら竜がですな、ずうっと天に昇っていったそうです。

そこのいわれの神様が八大竜王様って、その人はいいなはっとです。だけどですね、下原の伝説ではメッチエンばあさんが切りかかった年から火事がありだしたそうです。なん軒でん焼くるそうです。そっで、こりゃちゅうてからですな、こんだ病気が始まった。 病気が始まって死に絶ゆるごっなるもんで、神様拝んだそうです。そこであそこに八大竜王様の像をまつったけど、どうしても雷さんの眉間が割れるそうです。こりゃいかんというて、頼んで刻んでもらったけどまた割れる。八へんも刻んで皆割れる。しょうがないのでその大まま拝みよったら頭の痛い人は頭がよくなるちゅうてそれから皆、参るそうです。お礼には竹の皮のバッチョ笠とサイコンヅ(木槌)をもってですなお参りするといいちゅうですな、私 の子どもんころ、大きい箱いっぱい                     バッチョ笠があがっとったですたい。笠ばかぶってサイコンヅツでトントントンと頭ば叩くととても不思議に頭がよくなるそうですたい。八大竜王様は頭痛の神様ちゅうて皆参り出したちゅうこっですたい。雷様のお詫びに作った神社だけど頭痛の神様ちゅうて今でもあすこにありますでっしゅが、所が最近みたら誰かすり替えたっちゃなかろかな。下原の甲斐家のですな先祖だったでしょうな、その祖母ちゃんが。それで八月の二十八目じゃったかね、あの日にゃみんな寄って、なお魚やお酒や煮染めなんか持ってですね、お祭りをするそうです。昔は夜どおししよったらしか。それは八軒ですもん。今どおり続いとるち思います。大きな藤葛が、私が子どもん時からあすこにゃあったですたい。今は町の文化財になっとりますな。

 

32 猿の嫁入り

高 橋 佳 也   

 

田ぱ植えにゃんちゅうとに、じいさんの田んぼにゃ水が足らんで困っとった。

なんとか、田は植えたばってん、水が足らにゃあ実りの悪かごつなるもんじゃき、ひとりごつば言わしたったい。                            

誰か水の世話ばしてくれんもんじゃろか。毎日たっぶり水かけばしてく守るもんのおっなら、娘ぱ嫁にやったちゃよかばってんなあ。」                                                                                              

じいさんのそん話ぱ猿が聞いとった。

翌日、水回りに行かしたじいさんなたまがらした。田んぼにゃ水がたっぶつかかっとる

「おうりや、こりや不思議、こげん水がいっぱいになっとるたい。誰のしわざかいな。」

すっと、田のくろから猿やつが出て来おって、どうかな、じいさん、約束どおり娘ぱ嫁に貰おうたい。あんたの言うたごつ、たっぶり 水ばかけたつばい。あさって貰いに行くけんね。」

そげん言うて、山ん中さん入っていっちもうた。

じいさんな囲ってしもて一番姉さんに

お前なあ、猿んとけ、嫁に行ってはくれふどか。約束ばしてしもうたったい。

そげん言うと「誰が猿んとけなんかいくもんかいた。」 ちゅうて相手にせんとたい。そっで真ん中ん娘に言うた。「お前はどうかい。」

「あねさんの出けんこっあ、おんも出けん。」

そげん言うもんじゃき、一番末娘に頼ましたったい。

「おんな、今まじ可愛がってもろち、こげん太なったつじゃき恩がえしに嫁に行きまっしゅ」

はんどがめとかんざしばもろうて、迎えに来た猿と一緒に山さん行くこっになったった。

猿に、はんどがめばからぁせち、大川の一本橋ば渡る時、かんざしば川ん中さんわざつ落としたったい。

あらあら、かんざしば落としてしもうた。はよ取って来てはいよ。」 太か声でおらばたもんじゃき、猿やつはあわてち川に飛びこんだつたいね。すっと、はんどがめに水がりこんで猿やっあ川ん底さん沈んでしもうた。

じいさんな、親孝行もんの末ん娘に、しんしょう全部やってしもうたちゅうこったい。

 

33 たぜんさん話 その1  

高 橋 佳也 採話

 

たぜんさんちゅう人が 西町におらしたと。 田の草取りもしまえば、盆買いもんにいかにゃんと、宮地 盆買いもんにこらしたと。そしてね、あっちこっち店じ、そん盆の買いもんば、線香やら、なにやらしてからね。出口のみーさんちそばやがあったところじ その 一杯ともだちばっかりで飲もうか飲みよらしたと。そして、えくろうちから友だちんぶんなたぜんさんが一人 えくろうち起けんもんじゃきね。 みんなじ 若けえもんじゃき にくぞして 頭ん ちょんまげを坊主に そり落としてしもうたと。

そしてもう、 ほったらかして みな帰ったげなたい。

そして たぜんさんが一人 残っちょってから、 夜明けに目が覚めらしたらしいもん。頭がすーすーするけん手でなぜたら もう坊主にそってあるけん「あいたおらあ いつ死んだろうか」と思うちから 「ああ こりゃあもう 家んもんに何も言わずに来たし ほーりゃこりゃあ よからんこつができたばい。」と思うちね。 「こりゃ ちょっとうちん戻ってみにゃ どげんなっちょるかわからん」ちゅうちから そん一人で みーさんげを出てから とことこ せとかなあ せとん川そばを通りよらしたと。そしたら 川がちょろちょろ ちょろちょろ流れるもんじゃき「はあー三途の川もちょろちょろ流れよるばい。」ちちから 家さん戻りよらしたら今ん 極楽寺前来て 「極楽寺」と書いてある。お寺があるき「ああ、こりゃ極楽浄土たい。 極楽いかにゃんばってん 行く前にちょっとどうでんこうでん家にちょっと戻ってみてまあ うちん様子を見てこにゃあ どぎゃんなっちょるかわからん。」

それから自分のうちに戻らしたげなたい。 そしたらうちんもんな とっつあんな 盆買いもんにいって戻らん。 ばってん 若けえ者やら よめごやら 麦じの始めようとして 麦じのんしこがありよるちたい。

朝 息子が切ってきた 朝草がうまやの横っちょに積んであるちたい。

「ああ、ここが適当な かくれ場所」 ちちから そん 草ん横にかくれちから 息子たちが がまだすとば見よらしたと 「こりゃもう 俺が死んだちゃあ あとは世話なしもん 嫁ごやら 息子やら 二人も三人も よってたかってがまだしよるき ああ こりゃあよかった。」ちうてからね。 草のかげからいっしょうけんめい見よらしたと。

したらもう 陽もあがってきたもんじゃき 息子が馬に 草ば投げやってやらなんもんじゃき草やりに来たらとっつまが そこに しゃごじょらすちじゃもん。

「あっ、とっつぁんな 

もう方角もにゃあ、 あんた 盆買いもんに行ったま戻りもせんで、 何ちゅうこつかな。」て、「なんかな して頭はっそってしもうて」ち 息子がおごるちじゃあもん。

「やかましい、わりゃあ だまちょらんか。

おりゃあ 草葉のかげから見よるとじゃがあ。」ち ゆうたげなたい。                                       

34 たぜんさん話(その二)

たぜんさんの から泳ぎ

たぜんさんが、宮地ん町から帰りよる時の話たい。化粧原(けしょうばる)を出て至極(しごく)の手前まで来ると、急に根子岳の方が暗くなって、やがて大雨になった。

「昔から、根子岳夕立や屁もひりあわせんち、よう聞いたもんじゃが、ほんなこつばい」

たぜんさんな、川っぷちの家の軒下で独り言を言いながら雨宿りばしとった。

「夕立にゃちょっと長か雨ばい」と、着物にしみこんできた雨水のひやりとした感じに身を縮めて、雨が上がるとを待っとったが、なかなか止みそうな気配もなし、思いきって雨の中へ飛び出した。川は水かさを増して、沈み橋もどこにあるかわからんごつなっとったんで、着物のまま泳いで渡る事にした。流れが速いんで、なかなか思うように進めん。ところどころ背のとわん(立たぬ)所もあって、懸命に水ばかきながら泳いだつばってん、一向に岸に着かぬ。「おかしかなあ、さっきの雨くらいで、こげん水が増えるのも不思議ばい、川幅も広うなっとる。どうもおかしか」

何度も流されそうになりながら、やっと岸に逢い上がり、やれやれと濡れた着物をぬいで溜め息をついたったい。川岸にゃ薮があって、椿の木が川原に枝を差し出したように葉を茂らせとる。

いつの間にか雨はあがっとった。日が照って蒸し暑いような天気になってきた。

おまけに椿の木の下にゃ、赤々と焚き火が燃えとったんで、たぜんさんな着物ば乾かして帰ることにした。よか按配、着物も乾いたごたるし、天気もようなった。たぜんさんな、ほんなこつよか気分だった。「今帰ったばい」

家じゃ、おっかさんと嫁ごが夕飯の支度ばしよらす。

「えらい雨だったな。いっときゃ、どしゃ降りじゃったばい。至極の手前で雨宿りばしとったばってん、やがて止んでくれたんで助かった。あんくらいの雨で、川ば渡れんごつなったつは、おかしかちゃ思うばってん、とにかく泳いで渡ったばい」 おっかさんと嫁ごは顔を見合わせて笑い出した。「あんた何ば言いよっとね」

「雨なんか降らじやつたばい」代わる代わる二人が言うもんで、たぜんさんな、むきにならした。

「そぎやん言うたっちゃ、ほんなこつ椿の木の下で着物ば乾かしたっだけん」 「そりやおかしか。そぎやん大雨の降ったつに、何で火が燃ゆるかいた」

「ふうん、そういやそうたい。ばってん確かに着物が乾いたばい」 「あんた、きつねにでん化かされとるとじゃなかな。そうそうきっとそうに違いなか」

嫁ごは決めつけるごつ言うもんだけん、とにかく川まで行ってみる事にさした。 行ってみると、椿の木の下には真っ赤な花が掃き寄せてある。

「なあんかい。火が燃えとるち思たつは、散り椿かい」

そして、川向こうの蕎麦畑の白い花は散々踏み荒らされとる。荒らしたつは、たぜんさん自身に違いなか。 たぜんさんな、ううんと唸ってしまわした。

そうしてこの前、狐の巣穴を見つけた時、入口ば石でふさいだこつば思い出した。

畑ば狐に荒らされて、むしゃくしゃしている時だったんで、あんな事をしてしまったが、後から子狐を連れている母狐の姿を見た時に「ああ、子育て中だったのかあ」 「子に餌ばやるためだったつばい。そっであぎやん畑ば荒らしたっちゅう訳だったつばい。 こっちがやって、今度は狐にまんまと仕返しされたちゅう訳か、これがほんとのいたちごっこ、いや狐ごっこか」と、たぜんさんな考えたが、腹は立たんだった。ただ蕎麦がらで引っかいたらしい傷跡が、顔や手足に無数についとって、いつまでも残っとるんで、会う人ごとに訳を聞かれるのが、のさんこつじゃった。

たぜんさんの独り言「狐や狸にゃ、あんまかかわらんがよかなあ」

 

35 湯女の話

 

塩塚のはずれに東岳川が流れているが、水量は少なく、大水の時以外は 水は川の中心部をすこしばかり流れているていどである。 昔のことだから 木橋がかかっていて、 橋の下には 時には乞食や流れ者がわらをしいて 雨露をしのいだりしていたにちがいない。

ある夜 橋を通りかかった若者の耳に たしか女のやわらかい味のある声が聞こえたようだった。あやしげな声だったので、思わず橋の下をのぞくと 薄もやの中に裸身の女の肩が浮かんで見えた。

若者は夢かと目をこすると 「どなたかしらんばってん お湯にはいんなはらんか」と手招きした。 若者は全身に冷や汗をふいて、たちすくんだ。 湯女がでるといううわさが立ったが

実はよしという橋のふもとの家の女房で 風呂を橋の下にたてていたのだった。

からかいも程々にしてもらわないと困る。


ホーム • 上へ