民話 46〜50
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46

 ふるやんもり

47

 皿皿山(さらさらやま)

48

 天狗孫兵衛

49

 あさごぜ坂

50

 おしゃか様と小鳥たち

 

46 ふるやんもり

 山の中の一軒屋に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。ある晩のこと、馬どろぽうがこの家にしのびこんできました。そして下屋から天井にはいあがって二人の寝しずまるのを待っていたのです。いろりの前でおばあさんが話しかけました。「なあ、おじいさん、この世の中で一番おそろしかもんな何じゃろね」「わしゃあ、とらおおかみが一番おそろしか」                              おじいさんがそう答えた時、裏口にちょうど、とらおおかみがやってきました。おばあさんは、「わたしゃ、ふるやんもりがおそろしか」と、いいました。どろぼうもとらおおかみも、それをきいて、(そんなにおそろしい、ふるやんもりというのは、どんな化けものだろう) と考えたのでした。

  ちょうどその時、急に雨が降りだして、天井から雨がもり始めました。「ほらほら、ふるやんもりばい」 おばあさんがそういったので、どろぼうはあわててにげだそうとして、下屋からすべり落ちました。とらおおかみが二人の話を聞こうとして入口で聞き耳を立てていた所ヘどろぼうが落ちて来たのです。びっくりしたのはとらおおかみ、背中にしがみついたどろぼうを、すっかりふるやんもりと思いこんで逃げだしました。

振りおとそうととらおおかみ。どろぼうの方は、馬の背中と思ってしっかりつかまっています。とらおおかみは必死で飛びはねました。はねとばされたどろぼうは、井戸の中に落ちてしまいました。とらおおかみは、森に帰って来て動物たちにその話をしました。 ものずきのさるが、その話を聞いて、井戸のなかをのぞきにやってきました。 井戸のなかは暗くて何も見えません。さるは、長いしっぽで井戸のなかをさぐつて見ました。馬どろぼうは、なんとかしてはい上がろうとしていたので、これさいわいと、さるのしっぽにつかまりました。その時、しつぽが切れてしまったので、それ以来さるのおしりは真っ赤、しっぽも短くなってしまったということです。

          

 

さらさらやま

47 皿皿山

           

 昔のはなしです。お藤という娼が阿蘇のある村に住んでいました。娘のお母さんは、もうとうに亡くなって、後いりのお母さんが来ていました。継母というわけです。継母は自分の連れ子ばっかりかわいがり、お藤にはつらい仕事ばかりさせていました。

 ある日のこと、お藤が家の前の白川べりで葉っぱを洗っていました。そこに殿様が通りかかりました。

 殿様は、かわいらしく利口そうな娘だと思って声をかけました。

「これこれそこの娘、わしは今、城から出て馬でここまでやって来たのじゃが、馬の足跡はいくつついたかわかるかな」

 すると、お藤は静かに顔をあげて、「おそれながらお殿さま、今、私が菜を洗いまし

たが、この川にたったさぎ波は、いかほどなのか、お分かりでごぎいましょうね」

 殿様は、とっさに答えたお藤のその言葉にびっくりしてしまいました。なんという利口な娘なんだろうと思ったのです。

 そこで殿様はためしに歌をよんでみました。

「流れ川 菜洗う娘の愛らしさ 背の高ければ妻とせしもの」もう少し年が多いのであれば、自分の奥方にしたいのだけれど、といった意味なのです。するとすぐに娘は歌で返しました。「峰山のつつじ椿をご覧じろ、背は低けれど花は桜に」

 殿様は二度びっ<り。

「山に咲いている花を見て下さい。小さくても桜の花のようにきれいに咲いてるでしょう」という意味なのです。とっさに、これだけの歌を返せる賢さに感心したのです。

 お城に帰る道すがら、あの娘のことが忘れられず、面影が浮かんできます。どうしても奥方になってもらいたい。 殿様はお城に帰って、さっそく家来を呼んで言いつけました。「今日出会ったあの娘のことじゃ。わしは気にいったぞ。奥方としてもらい受けたいものじゃ。早々に娘の家におもむき、これこれしかじか話をして、城に来てくれるよう頼んでまいれ。失礼があってはならんぞ。丁重に話してまいれ」さっそく家来が娘の家にやってきて、継母に話しました。

「ここには、歌をよむのが上手な年ごろの娘がいるはず、近所のものの話では、よくそこの小川で洗い物をしている娘だと聞いたぞ。お城に来てもらいたいのじゃが、どうかな」「はいはい、おりますおります」継母は自分の子どもには、洗い物などさせたことはなかったのですが、お藤を奥の部屋にかくしてしまい、我が子を殿様のお姫様にと、さっそく奥から連れて来ました。

「この子でごぎいます」

「なるほど。ではこれを見て歌をよんでもらおう」

 使いの侍は用意していたお盆の上に皿をのせ、その皿に塩を盛って松の枝をさしました。

この娘は歌など作ったことがありませんでした。そこで見たままを言ったのです。

「盆の上には皿、皿の上に塩、塩の上に松」

 なるほどそのとおりだけど、歌にはなっていません。侍は言いました。 「ほかに娘はいないのか」

「もう一人おるにはおりますが、お城にあがるような娘はおりません」「とにかく連れてまいれ」

そんなわけで例の娘が歌をよむことになったのです。

 娘はそくぎに歌をよみました。

「盆皿や お皿が峰に雪降りて 雪を根にして育つ松かな」使いの侍は、さっそく城に帰り、殿様に申し上げました。 それで、あらためて殿様からの所望があり、お城へのお嫁入りとなったのです。

 迎えのかごが来て、いよいよお別れとなり、お藤が家を出るとき継母は、お藤に最後の掃除をして出るように言いつけ、ほうきを投げやりました。

 お藤はお迎えのかごに乗りながら、笑顔で振り返ると言いました。

「今まではお藤、お藤と言われても、今から先はふじさまさまお藤様々」

 

48 天狗孫兵衛

 

 孫兵衛ちゅう男が中岳麓の扇谷まじ、たきもん取りに行ったときのこったい。孫兵衛は身軽な男で、岩から岩へひょいひょいと飛び渡りながら、山道ば登って行かした。扇谷にゃ昔から天狗が住んどって、そん様子ば上ん方から見とらしたったい。天狗は

「おれんごつ、身軽な男のおるこたあおるばい」そげん思ううち、声かけらした。

「おいおい、お前は人間だろ。そぎゃん身の軽かもんな見たこつのなか」

 天狗はえろう感心して、孫兵衛と友達になったげなたい。 ある日んこつ孫兵衛は葬式の揚げ豆腐ば買いに出かけたそうな。帰り道に仲良しになった天狗にばったり出会うたったい。「今なあ、江戸じゃあ大火事の起こっとる。火事と喧嘩は江戸の華ちゅう言葉もあるじゃろうが。ちょいと見とくとも、後学のためち思うばってん、どぎゃんな。あんたも一緒に行ってみんかい」 天狗に誘われち、孫兵衛もその気になったもんで、買うたばかりん揚げ豆腐ば、松の枝にちょいと引っかけて天狗の背中にからわれたそうな。天狗ちゅうのは神通力を持っとるんで、江戸までひとっ飛び、飛んでいってしもうた。

 揚げ豆腐買いに行った孫兵衛が、いつまでも帰って釆んもんだけん、皆いらいらしとった所に、澄まし顔で孫兵衛が戻って来て「江戸の火事はすごかばい。ちょいと今、見てきたばってん、あん火の具合じゃ、まだいっ時やおさまらんばい」 「何ば寝ごつば言うとるかい。ふざけとる場合じゃなかじゃろが」

 村んもん達がそげん言うと「ほんな話したい。江戸じゃ隣のおっさんに出会うたばい」

孫兵衛の言うごつ、何か月かして隣のおっさんが帰ってきて、江戸で孫兵衛に会うたこつば話したもんで、村んもんたちゃ 「天狗孫兵衛」てち呼ぶごつなったちゅう話たい。

49 あさごぜ坂

  山田の小池村のあさごぜばあさんは、琵琶を上手にひいた。ごぜというのは琵琶ひ きのことである。ところで、あさばあさんの息子は猟がすきで、冬、田畑の仕事が少なくなると、よく山へ行った。 ある日のこと、山の中で人の声がする。近づいて見ると、人の話ができる大化猫だった。 息子は鉄砲をかまえた。化猫がとびかかってきそうだったので思わず引がねを引いてしまった。 手応えがあったようだった。 家に帰ってみると、母親は体の具合が悪いと言いながらふとんをかぶって寝ている。 「魚が食べたい」と言うので、買ってきて食べさせると、大そう喜んだ。 体の具合は、それでもなかなかよくならない。医者を呼んでも布団から顔を出そうともしない。 どうも様子がおかしいので、医者と二人で、布団をはいでみると、大化猫がうずくまっているではないか。正体を見破られた化猫は、とびはねて逃げ出した。 化猫は、息子に撃たれた傷が痛むらしく、足をひきずりながら坂道をかけ登った。 化猫は、仕返しにやって来たのだった。 あさごぜばあさんを食い殺した上、ばあさんの声色を使って息子をだまし、油断しているすきに、おそいかかってくるつもりだったろう。

 化猫はそれから、ついぞ姿を見せなくなった。化猫の逃げていった坂道をだれ言うともなく、あさごぜ坂と言うようになった。

              

 

50 おしゃか様と小鳥たち

阿蘇山を遠見が鼻へんから眺めると、ほんなこつおしゃかさんの、ねとんなはるごつ見ゆるでっしゅが。 根子岳がお顔、高岳は胸、住生・き島は足のところですたい。そっで、こぎゃん話の残っとるちゅうわけですな。おしゃかさんな病気になんなはって、もう自分の命の残り少のうなったこつば悟っておられた。そこで、かわいがっていた鳥たちを集めることになされた。

 まっさきにかけつけたつが、すずめ。「ああ、よくきてくれました。あなたは、取り入れの時人間より先に、米でも麦でも食べなさい」 おしゃかさんな、そげんいいなはった。きじは、だいぶおくれちやってきたんで、みんなん前じ、恥ばかいた。そっで、目のぐるりがあこうなっとるでっしゅが。一番最後に来たつがつばめだった。つばめは、とてんおしゃれな鳥だったもんで、知らせを聞いた時にゃあ、お化粧の最中だった。口のまわりに紅ばつけちやってこらした。おしゃかさんな、つばめに、「おまえは、いざという時には役にたたない。それでは、みんなに申し訳がたつまい」そげんいわれて、土と虫を食い、水をのうじ暮らすごつ言いつけなはった。そげなわけじ、「ツチクテ、ムシクテ、ミズノウジ、ノチニナニクオウ」 ちゅうて、軒先にとまったつばめは、それ以来、そげな鳴き方ばするごつなつたてったい。


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